寄与分を主張している兄弟が相続争いを避けて財産を分割する方法

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親族の死亡により相続があり、兄弟姉妹の間で相続について揉める場合として、相続人が「寄与分」を主張している場合があります。今回は、この「寄与分」とは何か、寄与分が認められるのはどのような場合か、相続争いを回避するにはどのようにすればよいのかについて解説します。

寄与分とは

「寄与分(きよぶん)」(民法904条の2)とは、被相続人の財産の維持、増加に特別の寄与(貢献)をした相続人の取り分のことです。

寄与分が認められた場合、相続の対象となる財産から寄与分に相当する額を差し引いた上で、残りの財産を相続財産として相続人の間で分割することになります。

case

AさんとBさんのお父さんであるCさんは、
死亡時に3000万円相当の土地・建物と約3000万円の預金を持っていました。

Cさんは個人店を経営していましたが、
Cさんが高齢になってからは、実質的にはAさんが店を切り盛りしていました。

Aさんの働きにより、Cさんのお店は2000万円相当の財産の維持と増加が
できたようです。

いっぽう、Bさんは、
実家を離れて住んでおり、
家業を手伝ってはいませんでした。

Cさんが死亡した後、Aさんは「寄与分」を主張しています。
遺産はどのように分けられるのでしょうか。

 寄与分が認められるとどうなるのか?

Caseの場合、Aさんの働きによる2000万円の財産の維持・増加分が「寄与分」と認められれば、遺産の6000万円分(土地・建物3000万円+預金3000万円)から2000万円を差し引いてAさんに渡すことを前提とした上で、残った4000万円を相続人のAさんとBさんで分けることになります。

Aさん

寄与分2000万円+2000万円

Bさん

2000万円

こうすることで、Cさんの遺産に対して貢献をしたAさんを保護し、AさんとBさんの遺産に対する働きの間の差があることで不公平となることを防ぐことができます。

つまり、相続人の間での公平を図ったり、被相続人(遺産)との関係で清算を実現したりするために、「寄与分」という制度が設けられているのです。

寄与分が認められるためには?

寄与分が認められるためには
  • 特別な寄与であること
  • 被相続人の生存中における相続人自身の行為であること
  • 無償もしくはそれに近いものであること
  • 被相続人の財産の維持・増加と寄与との間の因果関係が要求されます

寄与分が主張された場合、遺産分割協議の中で、相続人の間で話し合いを行なって寄与分を認めるかどうかを決めていくことになります。

しかし、Caseのような実家近くに住み貢献をしたから寄与分を認めて欲しいAさんと、遠くに住んでいたから何らかの行為をすることが難しくそれだけで遺産の取り分が減ることに納得できないBさんとの間で話し合いがまとまらないこともあります。

そうすると、遺産分割調停という裁判手続に進むことになりますが、寄与分が実際に裁判上認められることは稀です。

寄与分が裁判上認められる場合

では、どのような場合に寄与分は認められるのでしょうか。

寄与分が認められる場合として、大まかに以下の5つの類型に分けることができます。ただし、これらの類型が合わさっている複合型である場合もあります。

(1)家業従事

今回のCaseのように、被相続人の家業に対して労務を提供した場合が「家事従事」です。
寄与分が認められるかどうかを判断する上での考慮要素として挙げられる事項は、下記の通りです。

  • 正当な報酬を受けていないか
  • 相当期間にわたって従事しているか
  • 被相続人との間の身分関係から通常期待される程度を超えたものであるか
  • 家業に従事しない相続人との均衡
  • 家業従事のしかた(専業かどうか)

この類型は他の類型と比較して寄与分が認められやすい傾向にありますが、単に家業に従事するだけでは、寄与分はなかなか認められず、長期間に及ぶ場合や、他の相続人が全く家業に協力的でない場合、従事の程度がかなり主体的であった場合にようやく寄与分が認められると考えられます。

裁判例としては、被相続人と婚姻後46年間にわたり家業である農業に中心的に従事した妻及び27年間にわたり無報酬で農業に従事した長男について寄与分を認めた事例(福岡高決昭和52年6月21日家月30巻1号78頁)などがあります。

(2)扶養

被相続人の生活費など金銭的援助を継続的に行なったことで、被相続人の財産が維持されたと認められる場合が、「扶養」です。 考慮要素として挙げられる事項は、下記の通りです。

  • 扶養を行なった寄与相続人が法律上扶養義務を負っていたか
  • 扶養の期間、扶養能力があったかどうか

しかし、寄与相続人の多くは法律上扶養義務を負っており、本来的に負っている扶養義務の範囲内であるとされる場合がほとんどです。

扶養義務を負っていても、18年間にわたり毎月多額の小遣いを与え、不動産の保険料を全額支払っていたといった特殊な場合にようやく寄与分が認められることになります(大阪家審昭和61年1月30日家月38巻6号28頁)。

(3) 金銭出資

被相続人が不動産を購入する際に資金援助をしたり、ローン返済を継続的に援助したり、施設入所の費用を負担したりと、被相続人に対して財産的な寄与をした場合が、「金銭出資」です。 考慮要素として挙げられる事項は、下記の通りです。

  • 金銭の出資によって、寄与相続人がどのくらいの利益を受けたか
  • (例えば不動産購入の場合)寄与相続人が同居していたかどうか
  • 無償もしくはそれに近いものであることにあたるかどうか

金銭出資という性質から、「無償もしくはそれに近いものであることにあたるかどうか」は厳格に判断され、無償であることが原則とされます。さらに、相続開始時に金銭等出資の効果が残存していることも必要です。

金銭出資型については、寄与分にあたるかどうかの判断が厳格にされるため、長期間のかなり高額の金銭出資でない限り、主張した寄与分が全面的に認められることは極めて稀でしょう。

(4)療養看護

被相続人が要看護あるいは要介護状態のときに、相続人の1人がもっぱらその役割を担ったことによって、専門サービスの利用金額分が浮いたことから財産の維持に貢献したと認められる場合が、「療養看護」です。この場合、考慮要素として挙げられる事項は、下記の通りです。 総合的に考慮されます。

  • 療養看護の必要性
  • 療養看護の継続性
  • 被相続人との身分関係等

しかし、被相続人と同居しており、多少の介助が必要である場合に療養看護に努めても、親族として通常期待される程度のものであるとして寄与分が認められない場合も多いでしょう。

もっとも、期間に関しては、家業従事型や扶養型よりも短期間であっても寄与分が認められやすい傾向にあります。療養看護については、期間が短くても密度の濃い療養看護がされる場合も多々あるからです。

(5)財産管理

寄与相続人の行為によって、被相続人が財産の管理費用の支出を免れるなどして遺産の維持に寄与する場合です。金銭出資型と同様に、寄与相続人が何らかの報酬を得ている場合には管理行為の対価とみなされやすく、遺産を無償で使用しているなどの事情があればその使用利益が考慮されるため、寄与分が認められにくい傾向にあります。

相続争いを避けるには?

事後的な対処法

親の面倒を見てきた寄与相続人と、同居している親子なのだから多少は面倒をみて当然と思っている他の相続人の利益や感情はぶつかることが多々あります。

まずは、遺産分割協議での話し合いを試みるべきでしょうが、それでも上手くいかない場合には弁護士に相談し、それでも合意に至らなければ、裁判所という中立的な機関に判断を委ねるのがよいでしょう。

しかし、裁判では寄与分はなかなか認められないものですので、話し合いの際には、お互いにどこまで譲歩できるかを踏まえて検討することが重要です。

事前の対処法

死亡後に寄与分の主張がされた場合、実際にこれが裁判で全面的に認められることはあまりありません。また、寄与分を主張すると多くの場合、調停という裁判手続に向かうこととなります。

そこで、相続が起きる前に準備しておくことも必要となります。

具体的には、事前に親族の間で話し合いをしておくこと、被相続人に遺言書を書いておいてもらうこと、財産の管理について定期的に情報を共有しておくことが重要です。

さらに、寄与分を後に主張するような状況にあるときは、介護日誌などの寄与があったことの証拠を保存しておくようにしましょう。

特別の寄与

2020年4月1日に施行された相続法が改正された民法では、「特別の寄与」について定めています(民法1050条)。

これは、相続人以外の親族でも被相続人に対して無償で療養看護をするといった特別の寄与をした者は、相続開始後に、相続人に対して、特別寄与料の支払いを請求できるとしたものです。

この規定は、相続人以外の親族の寄与についても保護を図ったものです。しかし、相続人以外の親族から特別寄与料が主張されることにより、特別寄与を認めてほしい親族と、遺産が減少するから認めて欲しくない相続人との間で争いとなる可能性があります。

この規定は施行されてからまだ間がないため、今後の動向次第ですが、相続人以外の親族とも連絡をとっておき、遺産争いを避ける工夫をすべきでしょう。

まとめ

今回は、寄与分とは何で、どのような場合にこれが認められるのかについて解説しました。しかし、寄与分が調停裁判で認められることは、現実にはあまり多くありません。相続人間での話し合いや事前の準備が重要となります。どのように準備すればいいか分からない場合や話し合いがまとまらない場合には、専門家への相談をおすすめします。

この記事のディレクター
行政書士 保田 多佳之

このサイトの管理者。2005年から現在までウェブの企画・制作・マーケティングまで幅広く経験しています。これからも仕事の中心はウェブの仕事です。2021年から行政書士専用のウェブ制作を行っています。

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