実家の土地を相続したら、たまたま土地改良区内の農地だったということがあります。農地を相続するには、農業委員会に届け出が必要ですが、
そのような疑問に答えるべく、今回は土地改良区の仕組みや土地改良区にある農地を相続した場合について解説します。
土地改良区とは
農業用用排水施設の整備・管理や農地の区画整理、農用地の開発など、農林水産省が1949年に制定した土地改良法に基づき、土地改良事業を実施することを目的に設立された団体です。
1963年には、圃場整備事業(農村の環境条件を整備すること)が制度化され、大型農業機械の利用が可能となりました。これにより、作業効率が上がり、労働時間の短縮を実現させました。
圃場整備事業によって整備された施設は、国や県から土地改良区へ譲与、管理委託され、土地改良区によって管理されています。
一方、組織体制の整備や農業人口の減少、農家の核家族化などで、土地改良区は年々減少傾向にあります。
水:農業用水、地域用水など
土:土地、農地など
里:農村空間
土地改良区の事業と目的
土地改良区の事業
国営土地改良事業や道営土地改良事業が実施される場合には、事業の換地業務等の受託及び推進、事業により造成された土地改良施設の管理受託、事業に係る受益者負担金の徴収等が主な業務となります。
最近では、防災対策や景観の保全等の役割も果たしており、施設管理団体としての位置づけが強くなっています。
土地改良区の目的
土地改良区は、主に以下のような事業を各土地改良区で行っています。
交換分合とは、分散していた農地を交換によりまとめることです。土地改良区は、その地域のすべての農家で構成されています。
土地改良区の地域としての役割
排水管理
大雨や洪水時に地域の湛水などの被害を防止するため、災害防止の観点から排水管理を行います。
用水管理
農業用水を田んぼに届けるため、用水の量を調整したり、ゴミの処理や泥上げ、などの日常的な維持管理を行います。
農業用水は、防火用水や消雪用水にも利用されます。必要に応じて、用水路の建設・修繕、水門の点検も行います。
農道管理
農業生産活動のために農耕用車両等が、常時支障なく通行できるよう農道の構造を保全し、円滑な交通を確保、農道の維持修繕などを行います。
環境保全
用排水路には、さまざま動植物が育んでいるため、暮らしやすい水路や施設の整備などを行っています。
観光資源
ダムやため池が地域の観光資源として活用されています。
土地改良区の組合員
設立要件
土地改良区は、15人以上の農業者が土地改良事業、土地改良区の概要について、受益地内の事業参加資格者の同意(3分の2以上)を得た上で、事業計画、定款等について都道府県知事の認可を得て設立します。事業参加資格者は、全て組合員として強制的に土地改良区に加入することになります。
土地改良区は、総代会を最高議決機関としています。全国に約6,000の組織があり、地域農業の振興などのために活動行っています。
費用
土地改良区を所有すると、かかる費用があります。
賦課金
農業従事者は、組合員として強制的に土地改良区に加入しなければなりません。加入に関する入会金はありませんが、農業用水利施設の維持管理、農地の保全、区画整理などの事業のため「賦課金」が徴収されます。
経常賦課金
経常賦課金は、農業用水利施設の維持管理や土地改良区の運営費等を指します。数千円~2万円程度です。
特別賦課金
特別賦課金は、圃場整備事業や農道整備等、事業実施地区の地元負担金や償還金などです。
法的根拠
賦課金に関する法的根拠は、土地改良法36条第1項に規定されています。
土地改良区は、定款の定めるところにより、その事業に要する経費に充てるため、その地区内にある土地につき、その組合員に対して金銭、夫役又は現品を賦課徴収することができる。 (一部省略)
土地改良法36条第1項
具体的な金額は、上記の通り、土地改良区定款などで決められます。
滞納があった場合には土地改良区は行政上の強制執行により徴収することができます。しかし、公共性の高さから、法人税、事業税、事業所税、登録免許税、印紙税、所得税等が非課税となります。
土地改良区の農地を相続したら
土地改良区の土地は農地であるため、相続してから農業を続けることができます。しかし、農地の管理は非常に大変で所有しているだけでも固定資産税が毎年かかります。
ここでは、土地改良区の土地を相続した場合についての手続きについて解説します。
相続登記手続き
土地改良区の農地を相続した場合は、宅地と同様、被相続人の登記名義のままになっているので、相続人の名義に変更しなければなりません。
したがって、農地を管轄する法務局に相続登記を行います。
相続登記の届出前には、遺産分割協議を済ませ、遺産分割協議書を用意しておきましょう。
とはいえ、法務局への登記手続きは、複雑な手続きですので司法書士に依頼するケースがほとんどです。
農業委員会への届出
相続開始を知ったときから10か月以内に農業委員会に届出をしなければなりません。また、農地を相続する際は、農地法3条の許可は不要です。
土地改良区の農地を相続した場合の費用
登記手続の費用
土地改良区の土地を相続した場合は、登記費用が発生します。
- 登記事項証明書
- 住民票
- 印鑑証明書
- 登録免許税
- 固定資産税
- 相続税
相続税納税猶予制度
農地は面積が広いため、どうしても税額が高くなります。農家を継がない相続人にとっては、毎年莫大な税金を支払わなければなりません。
一方、農家を引き継ぐ相続人がいる場合には「相続税納税猶予制度」という特例が設けられています。納税猶予となっていますが、実際には納税免除となることが一般的です。
相続税納税猶予の特例を適用するためには、被相続人、相続人、農地の要件があります。
被相続人の要件
- 被相続人の死亡日まで農業を営んでいた
- 被相続人が死亡の日まで認定都市農地貸付け又は農園用地貸付けを行っていた
- 農業を受け継ぐことを条件に生前に農地を一括贈与した
認定都市農地貸付は、農業者向けの貸付けです。農園用地貸付けは、市民農園向けの貸付けです。
相続人の要件
- 相続税の申告期限までに農業を引き継ぎ、その後も引き続き農業経営を行うと認められる人
- 生前一括贈与を受けた受贈者
- 相続税の申告期限までに特定貸付け又は認定都市農地貸付け等を行った人
特例農地の要件
- 被相続人が農業の用に供していた農地等で相続税の申告期限までに遺産分割されたもの
- 被相続人が特定貸付け等を行っていた農地又は採草放牧地
- 被相続人が認定都市農地貸付け又は農園用地貸付けを行っていた農地等被相続人が特定貸付けを行っていた農地等
- 相続があった年に被相続人から生前一括贈与を受けていた農地
土地改良区内の農地を売却するために
土地改良区の農地を相続した場合、農業初心者にとっては管理も難しく、所有しているだけでも毎年固定資産税がかかります。
そのため、相続人が農業を継がないのであれば、売却を選択するケースもあります。土地改良区内でも売却が可能ですが、以下の条件があります。
農地を売却するには農地法の許可が必要
第三者に売却する場合は、自分で売買の取引を行うことはできません。
農地を農地のまま売却するには、農地法第3条の許可が必要になります。農地は原則、農業従事者(耕作者)でなければ購入することができません。そして、農業委員会の許可が必要です。
農地を農地以外にのものにする場合は「転用」の許可が必要
自身が所有している農地を宅地などにする場合は、農地法4条の転用許可が必要です。
原則として、都道府県知事の許可と、農林水産大臣が指定する市町村の区域内にある農地を転用する場合には指定市町村長の許可が、それぞれ必要です。
例外として、市街化区域内にある農地については、農業委員会へ事前に届出ることで、許可が不要となります。
農地を農地以外のものにする場合
農地を売却してから、買主側が農地を農地以外のものにする場合には、農地法第5条許可が必要になります。
原則として、都道府県知事の許可が必要です。また、市街化区域内にある農地または採草放牧地については、農業委員会への届出により許可が不要となります。
農地の転用は、売却についてどのように土地を使用するかを具体的に報告しなければなりません。場合によっては、許可が下りないこともあります。
たとえば、具体的な使用方法が明記されていない、周辺の水路や農地、農道に影響を及ぼす可能性がある場合、農地法違反になっている場合などです。
まとめ
本記事では、土地改良区の仕組みや土地改良区にある農地を相続した場合について解説しました。
土地改良区は、農業水利施設の維持管理、かんがい排水施設の新設、変更、管理、区画整理など、農業に関わる幅広い業務を行う農業従者による強制加入団体です。土地改良区にある農地を相続するには、相続登記手続きと農業委員会への届出が必要です。
また、土地改良区にある農地を売却するには、農地法にもとづく許可申請が必要です。
農地を農地のまま売却する農地法第3条許可、農地を農地以外にのものにする場合はそれぞれ、第4条許可、 第5条許可が必要になります。
このように土地改良区内にある土地を売却するには、複雑な手続きがあり、相続してから放置する人も少なくありません。とはいえ、所有しているだけでも税金がかかるので、できるだけ早めに農地に詳しい法律の専門家に相談しながら、計画的に進めていくことが大切です。