リースバックを活用して不動産相続のトラブルを防ぐ

ライター依頼記事

不動産を相続した場合、相続人間で不動産をどのように分けるか、どのように利用するかをめぐってトラブルとなることがあります。

そこで、不動産をめぐる紛争の予防・解決の手段として「リースバック」という手法が利用されることがあります。今回は、この「リースバック」について、相続との関係で解説していきます。

リースバックとは?

そもそも「リース」とは、動産または不動産の賃貸または賃貸業のことを言います。そして、リースバックとは、現在住んでいる住宅を売却し(セル;sell)、それを買主(主に不動産会社)から借りる(リース;lease)ことで、以前から持っていた家に住み続けることを可能にする不動産売却の方式です。

つまり、住宅を売ることで売却資金を得ることができ、賃貸借契約を結ぶことで住宅の利用が継続できる方法です。

リースバックが利用される理由はいくつかありますが、そのひとつとして不動産の相続時のトラブルに対応するためというのがあります。

不動産の相続と遺産分割

不動産を相続したら

土地の相続が生じた場合、どのような手続を経て、相続人の間で財産が分けられることになるのでしょうか。

相続が生じた場合、まず、「相続人が誰か」が確定されます

相続人を把握しなければ遺産の分け方を決めることも困難だからです。相続人が複数いた場合には、相続財産は、後述する遺産分割協議が終わるまで、相続人間の共有に属することになります(民法898条文)。

次に、相続財産の調査が行われます。

相続財産の調査により、相続の対象となる財産を把握することができます。

その後、相続の意思表示がされます。

その後、相続人により、相続を単純承認するか放棄するか限定承認するかの意思表示がされます。この意思表示については3ヶ月の期間制限(民法915条1項)があることに注意が必要です。

そして、 相続財産の評価が行われます。

そして、相続財産の評価が行われ、その評価をもとに遺産分割協議(民法907条)が行われることとなります。

遺産分割協議が行われた後は、不動産については相続登記をしておくことが、後の紛争予防のために重要です。また、相続税の申告・納付の手続も必要です。

相続した不動産の評価

先にも解説したように、不動産を相続した場合、遺産分割の前提として不動産の金額を評価する必要があります。

この不動産の評価は、不動産鑑定士という不動産の評価を専門に行う人に報酬を支払って依頼する方法もあれば、不動産会社に査定してもらう方法もあります。

不動産評価の計算方法には、簡略化されたものから精密なものまで様々なものがあり、どの程度の正確性・信頼性を求めるのかにより、誰に不動産評価を依頼するかを決めるべきでしょう。

正確性・信頼性を重視するならば不動産鑑定士へ、費用を抑えたいならば不動産会社へ依頼することが多いようです。

また、相続税の計算・申告を税理士に依頼している場合、税理士が不動産の相続税評価額を算定していることがほとんどです。

 遺産分割協議とは

不動産の評価がされたら、その評価額をもとに、相続人の間で「遺産分割協議」が行われます。

「遺産分割」とは、相続財産が共同相続人の共有となっている場合に、これを各相続人の相続分に応じて分割し、各相続人の単独財産とすることです。

この遺産分割でどのように遺産を分割するかを相続人間で話し合うことを遺産分割協議といいます。

遺産分割協議では、不動産の分け方が話し合われることになります。

不動産の遺産分割の方法には、現物分割換価分割(価額分割)代償分割があります。

現物分割とは

現物分割とは、共有者間において、共有物そのものを分割する方法です。

換価分割とは

現物分割と対立する分割方法が、換価分割(価額分割)です。つまり、換価分割(価額分割)とは、共有物を売却し、その代金を共有者間で分割する方法です。

代償分割とは

現物分割と換価分割の中間的な分割方法が、代償分割です。代償分割とは、特定の相続人に共有物を単独で取得させ、その相続人は、他の共有持分の代償として物を取得しない相続人に対し金銭を支払う方法です。

遺産分割の方法には、このように様々なものがありますが、どの方法が適しているのかは場合によって異なります。相続人がどのように相続した財産を利用または処分したいのかを考慮して遺産分割の方法を決めることが必要となってきます。

相続不動産の利用方法

ところで、不動産を相続した場合、どのような利用の仕方があるのでしょうか。これについては、大きく分けて、売却と活用の二種類があります。

売却

売却については、売却代金という現金を得られるため、土地という分割困難なものを金銭という容易に分けられるものにできるというメリットがある反面、その不動産の所有権を失ってしまうというデメリットがあります。

活用

活用については、不動産の利用を継続でき、その不動産から収益を得ることもできるというメリットがある反面、相続人の中に不動産を手放したい者がいた場合には、その者の意向を反映できないというデメリットがあります。

不動産を相続することの問題点

不動産を相続した場合、特に、その相続した不動産が被相続人(故人)の自宅である場合には、遺産分割の際にトラブルとなることも多くあります。

なぜならば、不動産は、その物の性質上、分割することが難しく、共有持分のみを取得しただけでは満足な利用ができない場合も多くあり、さらに財産としての価額も比較的高額になりやすいからです。

例えば、相続人が複数おり、その中に不動産を自身で利用し続けたい者とそうでない者がいた場合、現物分割の方法をとることは適切ではありません。利用し続けたくない者がその不動産を取得しても無意味だからです。

この場合、代償分割の方法をとることも考えられます。しかし、利用し続ける相続人が、償金を払う資金力がある場合ばかりではありません。そうすると、換価分割によることも考えられますが、この場合だと、不動産を利用し続けたい相続人の希望をかなえることはできません。

このように、不動産には現物分割が困難な場合も多くあり、他の分割方法でも、必ずしも適切な解決とはならない場合もあるのです。そこで、財産を相続人間で分けるという「相続」「遺産分割」の目的を達成しつつ、継続的な利用も可能にする「リースバック」が注目されます。

なぜリースバックが有用なのか

このような不動産の相続に関するトラブルがあった場合、家庭裁判所を通して、遺産分割調停等の手続をとることも可能です。

しかし、この場合には、紛争解決に時間がかかることもあり、専門的な知識も多く必要となってきます。

そこで、「リースバック」の利用が考えられます。

最初にも説明したように、リースバックは、不動産を一度売却し、当該不動産を賃借することによって、継続した利用を可能にするものです。

つまり、リースバックにより、一度不動産を売って得た売却代金を相続人の間で分け、引き続き住みたいと思っている相続人は賃料を支払って、引き続き住宅に住み続けることが可能となります。

リースバックを利用する際の注意点

賃料の負担

このようにリースバックは、不動産相続の際の相続人間のトラブルへの対処として有用な場合があります。

他方で、リースバックの利用には注意すべき点もあります。

まず、リースバックは、その仕組み上、不動産を売却後、賃料を支払う必要があります。しかし、リースバックの賃料は物件の売却価格を参考にして決まるため、周辺の賃料相場よりも高めの賃料となることも多くあります。

このような周辺相場よりも高額な賃料を支払ってでも、売却・継続利用をしたいかどうかを、リースバックを利用するかどうかを決める際には考えておく必要があります。

長期利用には不向き

リースバック契約がされた場合、その賃貸借契約は、「定期借家契約」(借地借家法38条1項)という2年または3年の期間を定めた、契約更新を前提としない契約とされることがほとんどです。

したがって、相続した住宅に長期間住み続けたい場合、リースバック契約は不向きです。たしかに、リースバックで売却した住宅を買い戻すことも可能ですが、買い戻しの際には売却価格よりも高い価格で取引されることが多く、費用負担は大きいと言えます。

まとめ

このようにリースバックには、注意点もありますが、リースバックを相続不動産をめぐるトラブルに対応するために用いることもできます。

相続した不動産の利用として、リースバックが適切な場合

  • 相続人が複数いて不動産の分割をめぐる紛争のリスクがある場合
  • 相続した不動産を売却することでまとまった資金を得たい場合
  • 相続した不動産を一時的には利用し続けたいもののそれが短期である場合

不動産をめぐる権利関係や相続人の意向も踏まえて、リースバックを利用するかどうかを選択することが重要です。