遺言書が作成されておらず分割協議書作成が難航
父が68歳の時に肝硬変が悪化して肝臓がんに至り、入院から僅か2ヶ月で死去したことから、急遽相続が発生することになりました。
母の希望で父には肝臓がんで余命が僅かということを宣告しなかったため、遺言書が作成されておらず法定相続通り母に1/2と長男である私と弟の2人が各1/4ずつという形で相続する方法が考えられました。
しかし、預貯金額が700万円程度と少なく、土地と建物の評価額が8,000万円程度となるために法定相続通りに分割すると、兄弟に相続税が発生することが分かりました。
平成27年以降の相続または遺贈の場合、3000万円+(600万円×法定相続人の数)以上が相続税が発生するかどうかのラインです。この場合、法定相続人は3名ですので、4800万円以上の遺産があるとき相続税が発生します。
私と弟はそれぞれ独立していて実家を出ていたので、基本的には両親が一緒に暮らしていた状態で、実家に近い私が時々様子見を行っている状態でした。弟夫婦は県外に住んでいて、実家まで車で4時間程度の距離です。
そこで、母の生活があるので土地建物を全て母親に相続してもらい、配偶者特別控除を使って支払う相続税を僅かにしようと考えました。
相続税の配偶者控除は、配偶者が相続する遺産が1億6,000万円までなら税金がかかりません。
当初は母と私に加えて弟も納得していましたが、弟の妻が突如出てきて法定相続分ずつ分割するようにと迫ってきたことで振り出しに戻りました。
死去から10ヶ月以内に遺産分割協議書を届け出なければ、母の配偶者特別控除が使えなくなってしまうので、何とか弟に冷静さを取り戻してもらう必要があったわけです。
弟に2択を提示して法定相続に必要なお金を私が出すことで解決
弟の妻が出てきて弟に入れ知恵を行い相続をかき回すことがあるという話は聞いていましたが、実際に目の前で起きると唖然としてすぐには言葉が出なくなります。
どうやら、弟の妻には土地建物の評価額8,000万円に加えて預貯金700万円を合計した8,700万円の1/4が相続できると踏んでいた模様です。
相続人になりえる人は、配偶者 かつ 直系である子または親または兄弟です。
2,175万円が総額の1/4にあたる法定相続分であることは確かですが、預貯金額が少ないために土地と建物を売却しないと2,175万円の捻出はできません。
また、母の住処が無くなってしまうことは生活基盤に影響するので、弟には次のような2択を提示することで選んでもらうことにしました。
1.私が今回の相続を放棄して母に土地建物の相続を行ってもらい、弟には預貯金700万円を相続してもらう。
2.法定相続に従い土地建物名義を母と私の共有名義とし、法定相続分の2,175万円を預貯金と私が拠出する金額で弟に支払う。
上記の2つの案を提示して、どちらが良いのか弟に夫婦でじっくり相談した上で3ヶ月以内に選んでもらうことにしました。
敢えてじっくり弟夫婦に選んでもらうようにした理由は、目先の相続分が欲しいのか確定させるためであって、専門家に聞いて回る時間を与えるためです。
厳密な話をすると1番を選ぶ方法が賢い選択ですが、弟の妻がどのような考え方をしているのか確認する意味合いがありました。
母と相談の上で2番を選んだ場合には、次の相続までにしっかり対策を立てなければならないことを意味します。
(1)兄が相続放棄するので、法定相続人は、配偶者と弟の2名になります。法定相続分も2分の1ずつ。しかし、遺産分割協議の条件付きで、配偶者が「土地と建物の評価額が8,000万円」弟が「現金700万円」の合意をする約束です。(結果:弟+現金700万円)
(1’)年功序列によって、次に配偶者が亡くなった場合、「土地と建物の評価額が8,000万円」を兄弟で相続することになります。(結果:土地と建物の評価額+4,000万円 で合計4,700万円)
(2)遺産分割協議の条件付きで、配偶者と兄が「土地と建物の評価額が8,000万円」弟が「現金 2,175万円」の合意をする約束です。(結果:弟+現金2,175万円)
(2’)年功序列によって、次に配偶者が亡くなった場合、「土地と建物の評価額が8,000万円」の半分の母親の持分を兄弟で相続することになります。(結果:土地と建物の評価額+2,000万円で合計4,175万円)
ただし、弟の立場からすると、法定相続分を主張したことによって、家族間の信頼関係が失われて、配偶者の相続時に遺言に不利な条件が書かれることを予想し選択するのであれば、少し結果が変わります。
(1”)年功序列によって、次に配偶者が亡くなり、かつ、一番弟に不利な遺言が書かれていた場合、「土地と建物の評価額が8,000万円」を兄が相続することになり、弟は遺留分の主張をします。(結果:土地と建物の評価額+2,000万円 で合計2,700万円)
(2”)年功序列によって、次に配偶者が亡くなり、かつ、一番弟に不利な遺言が書かれていた場合、「土地と建物の評価額が4,000万円」の母親の持分を兄が相続することになり、弟は遺留分の主張をします。(結果:土地と建物の評価額+1,000万円 で合計3,175万円)
家族間のお金の争いはあまりしたくないものですが、相続を主張する権利はあります。第三者の意見をお伝えするだけでもお役に立てることができるかもしれません。
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最終的に弟が出した結論は2番だったので、法定相続通りだったこともあり、10ヶ月以内に遺産分割協議書の提出までを終えることができました。
ポイントとなったのは、相続対策を今まで父が全くしていなかったことが原因であって、弟の妻との付き合い方を改める必要があるという認識を母に持たせることに繋がったことです。
遺言書の準備だけでなく、時間をかけて母が終活を本格的に行う決意をするに至りました。
最終的には介護付き老人ホームへの入所や認知症となった時にどのようなスケジュールで進めるのかといった部分を弁護士と契約して公正証書遺言作成にしました。
死後事務委任契約を法律事務所と結ぶことで、結果的に次の相続では遺留分のみに注意すれば良いことになります。