社員が会社を退職する場合に、労働者と事業主ができること(労働基準法など)

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職場を「辞めたい」と考えたとき、働いている人(労働者)はどうすればよいのでしょうか。何をしなくてはならず、何を主張できるのでしょうか。今回は、労働者の退職について解説します。

契約と法律

労働者(働いている人)と使用者(雇う人)との間の合意・契約(労働契約)によって、労働条件を決めることはあります。

他方で、労働基準法(労基法)、労働組合法(労組法)、労働関係調整法(労調法)、労働契約法などの労働関係に関する法律があります。また、民法にも、労使関係(労働者と使用者の関係)について定めている規定があります。

労働契約の有効範囲とは

労働契約は、法令にも、労働協約にも、就業規則にも反しない範囲で有効となります。優先順位としては、法令、労働協約、就業規則、労働契約の順番となります。

法律が最優先

労働三法
  • 労働基準法
  • 労働組合法
  • 労働関係調整法
労働に関する法律

労働三法、労働契約法などの労働関係に関する法律があります

民法

労使関係(労働者と使用者の関係)について定める規定があります

法律や規定は、労働者を保護するために設けられたものが多数です。それは、使用者に雇われている労働者は、一般的に使用者よりも弱い立場になることが多いためです。

このような規定を飛び越えて、労働者と使用者の間の契約が優先してしまうと、労働者は大きな不利益を受けなければなりません。

そこで、法令に反する契約をしても、その契約は無効となります。

労働協約(労働組合法14条)とは

「労働協約(労働組合法14条)」とは、労働組合と使用者との間の労働条件についての書面による集団的な合意のことです。労働協約は、労働者の集まりである労働組合による労働契約内容の決定・変更を意味します。そこで、労働協約で定めた労働条件に反する労働契約は無効となります。

就業規則とは

「就業規則」とは、労働者の就業上遵守すべき規律及び労働条件に関する具体的細目について定めた規則のことです。就業規則での労働条件の基準は、労働基準法に定める基準以上のものとしなければならないとされています。つまり、就業規則が定める労働条件の基準は、その職場での労働条件の最低基準となるのであり、これに満たない労働契約は無効となります(労働契約法12条参照)。

法律における「義務」

ところで、労働関係法の中には、「義務」について定めているものがいくつかありますが、法律上の「義務」には種類があります。

義務規定(法的義務)

必ず守らなければならない義務です

努力義務

守るように努める義務を定めたものです

任意義務

何も義務を定めていない規定です

義務規定については、これに反する合意を当事者がしても無効(強行法規)ですが、任意規定については、当事者の間で法律と異なる合意をすることも認められています。

労働関係法では、労働者を保護する必要性が大きいことから、義務規定が多くなっています。

退職したいと思ったら

退職とは

退職とは、一般的には、労働者と使用者の合意による労働契約の終了(合意解約)または期間の満了や労働者の申し出による労働契約の終了をいいます。

退職と似た言葉として「解雇」というものがあります。「解雇」とは、使用者の一方的意思表示による労働契約の解除です。

退職はどのような場合に認められるのか

退職、つまり、労働契約を終了させたいと考えた場合、どのようにすればいいのでしょうか。その対応は、「期間の定めのある労働契約」と「期間の定めがない労働契約」で異なります。

退職を考えた場合、雇用契約書や雇入時に交付される労働条件を明示した書面(雇用契約書がこれを兼ねていることもあります。)を見て、どのような契約内容となっているのか、雇用期間の定めの有無などを確認して、退職の条件やタイミングを考えるようにしましょう。

期間の定めがある労働契約の場合

基本的には期間満了を待って終了することになります。つまり、当事者は契約期間の終了を待てばよいので、契約で定められた期間中は一方から契約を終了させることができないのが原則です。

例外的に期間満了前に退職が認められるのは、以下の4つの場合のみです。

例外的に期間満了前に退職が認められる場合
  • やむを得ない事由がある場合(民法628条)
  • 雇用の期間が5年を超えて労働者が2週間前までに予告をした場合(民法626条)
  • 使用者が破産した場合(民法631条)
  • 使用者の承諾がある場合(合意解約)

なお、逆に、労働者が期間満了後も働き続けたいと思っているのに、使用者が更新を拒否することは、労働者保護の観点から、認められない場合もあります(雇止め法理)。

期間の定めがない労働契約の場合

合意解約の場合の他に、当事者(労働者・使用者)からの申し入れの2週間後に契約を終了させることができます(民法627条1項)。期間の定めがないからといって、契約が永遠に続くならば、労働者は不当に長期に契約に拘束されることとなってしまうため、当事者の一方からの申し入れによる契約の終了についても法は定めているのです。

なお、このような労働者からの一方的な意思表示による解約を「辞職」と言います。

退職時に労働者が主張できること

退職時に労働者は何を主張できるのでしょうか。

退職

まず、当然ですが、退職できる条件を満たしているのであれば、「退職」をすることを主張できます。この労働法上の規定は強行法規ですので、不当に長く労働契約を定めている場合にこれに拘束されて働き続ける必要はありませんし、条件を満たしているのに「退職を認めない」という主張は認められません。

退職金

退職金の制度を設けることは法的義務ではありませんが、会社に退職金の制度があれば、退職金をもらうことができます。退職金の支給については、退職理由が自己都合でも、もらうことができます。

退職金は、使用者(雇い主)からみると将来において退職を条件として確実に発生する給与、給与の後払いです。会計上は「引当金」として処理されます。

有給休暇の消化

退職時に6ヶ月以上勤務をしているのであれば、有給休暇の行使条件を満たしているので、有給を消化してから退職することも考えられます。有給休暇は、雇用契約であればアルバイトであったとしても、条件を満たしていれば行使できる権利です。退職を考えたときは、有給休暇の行使条件を満たしているかどうかを確認するとよいでしょう。

退職に対しての義務

労働者の義務

労働者は、雇用されている間、秘密保持義務や競業避止義務といった誠実義務を使用者に対して負っています。これらの義務は、退職後も続くのでしょうか。

一見すると、労働契約は終了しているため、このような義務もなくなるかとも思われます。しかし、 契約で合理性が認められる内容の特約がある場合には、退職後も義務が続く場合もあると考えられています。

いかなる場合でも義務を負わなくなるとすると、会社を経営する使用者は多大な損害を負いかねません。引き抜きで退職した元社員が、転職後の会社で、前の会社の企業秘密を多々伝えるという状況をイメージしてもらえば、多大な損害を負うということが想像できるかと思います。

契約で合理性が認められる内容の特約がある場合には、退職後も義務が続く場合もあると考えられています。

使用者の義務

退職時に労働者が行わなければならないことは、退職時等証明書の交付(労働基準法22条1項)と金品の返還(労働基準法23条)です。

退職証明書は、労働者の請求があった場合に、速やかに交付しなければならないとされているものです。退職証明書の記載は、解雇の場合に問題になることが多くあります。

また、労働者が退職した場合には、労働者の請求から7日以内に賃金を支払い、退職金定められた期日までに支払い、労働者の権利に属する金品を返還しなければなりません。

実際には金品の内容について、労働者と使用者で主張が一致しないことがありますが、このような場合でも、まずは争いのない部分のみ返還しなければなりません。

使用者が退職者希望者にできないこと

退職をさせないこと

先に説明したように、期間の定めのある労働契約については「期間満了」によって、期間の定めのない労働契約については「申し入れから2週間後」に当然に効力が発生します。

つまり、使用者が「そんな退職は認めない!」と主張して、労働者を辞めさせないということはできません。

有給消化をさせないこと

有給休暇を消化したいといった場合に退職を理由にこれを認めないことはできません。

有給休暇については、「時季変更権」という有給を消化する時期を変更できる権利が使用者にはあります。しかし、これが認められるのは、「請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合」(労基法39条5項)です。

つまり、「退職するのが気に食わない」ということで有給消化をさせないことは認められないのです。

退職者に損害賠償請求をすること

退職することによって会社に損害が発生した場合に、損害賠償を請求されることは、原則として認められていません。また、損害賠償を予め予定しておくことは労基法上禁止されています(労基法16条)。

ただし、期間の定めのある労働契約について、期間前に退職した場合であって、やむを得ない事情が生じたことに労働者に過失がある場合には、損害賠償請求の可能性が否定はされない(民法628条後段)ので、注意しましょう。

トラブルになってしまったら

退職に関して、法律が様々な規定を用意していますが、現実には、労働法に詳しくない経営者もおり、退職をめぐって、労働者と使用者との間でトラブルとなることがあります。このような場合、当事者のみでトラブルを解決するのは困難です。では、会社を辞めたい労働者はどうすればよいのでしょうか。

解決するために対応を相談する先として考えられる選択肢は、弁護士、社会保険労務士、労働組合、労働基準監督署(労基署)が挙げられます。それぞれ、どのような特徴があるのでしょうか。

弁護士

弁護士に依頼するメリットは、交渉のプロに依頼できること、裁判になるようなケースでも対応可能なことです。他方、デメリットは費用が高くなる傾向にあることです。事案が複雑で悪質性が強い場合やお金をかけてでも争いたい場合には、弁護士に依頼するのがよいでしょう。

メリット
  • 交渉のプロに依頼できる
  • 裁判になるようなケースも対応可能
デメリット
  • 費用が高くなる傾向にある
  • 解決までに時間がかかる

社会保険労務士

社会保険労務士(社労士)とは、社会保険と労務の専門家です。社労士の中でも、「特定社会保険労務士」という社労士の中で紛争解決手続代理業務(ADR代理業務)を認められた者がいます。

特定社労士は、弁護士と異なり裁判はできませんが、裁判外での和解交渉をすることができます。社労士に依頼するメリットは、労務のプロを介した交渉ができることです。他方で、デメリットは、裁判はできないこと、費用がかかることです。

裁判まではしたくないものの、第三者に入って交渉をしてもらいたい場合には、社労士に依頼するとよいでしょう。

メリット
  • 労務のプロに依頼できる
  • 裁判外での和解交渉ができる
デメリット
  • 費用がかかる
  • 裁判はできない

労働組合

労働組合は、団体交渉権を有しているため、退職に関しての争いに関わることができます。メリットとしては、手軽であるということが考えられるでしょう。

他方で、労働組合は、弁護士や社労士と違い、退職を希望する労働者個人の代理人ではありません。小さな会社の場合などには、労働組合が会社に対して強く主張してくれない場合があるでしょう。つまり、労働者が希望する結果が得られると限らないリスクが大きくなるというのがデメリットと言えるでしょう。

悪質性が強くなく、手軽に交渉を依頼したい場合には、まずは労働組合に相談して一次的に解決を図るのがよいでしょう。

メリット
  • 依頼がしやすい
デメリット
  • 代理人交渉ではない

労働基準監督署

労働基準監督署(労基署)は、労働関係を指導監督する行政機関です。労基署では、労働関係の相談を受け付けています。労基署を利用するメリットとしては、費用がかからないこと、匿名性を確保しつつトラブルを解決することも可能であること、行政の立場からの介入が可能であることが挙げられます。

他方、労基署は監督する立場であり、交渉はできないといいうのはデメリットであるでしょう。明らかな労基法違反が認められる場合には、証拠を揃えて労基署に相談するのがよいでしょう。

メリット
  • 費用がかからない
  • 匿名性が確保できる
デメリット
  • 交渉はできない
  • 証拠がないと動いてくれない

トラブルを解決するために

このように、退職に際しトラブルになった場合にどこに相談するのが適切かは、状況によって異なり、ケースバイケースです。「退職に対してどのように対応したいのか」という意思、事案の悪質性を踏まえて、検討しましょう

まずは、労働基準監督署に相談してみたり、弁護士や社労士の無料相談で聞いてみるのもよいでしょう。

まとめ

以上のように、労働関係については、労働者保護に重点を置いた規定が多く設けられていますが、その内容は複雑です。退職をしたいと考えた場合には、まずは労働契約がどのようなものになっているかを確認し、退職の意思の申し入れをしましょう。退職に関してトラブルとなった場合には、その内容や意思に応じて適切な専門家や機関に相談することが重要です。

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この記事のディレクター
行政書士 保田 多佳之

このサイトの管理者。2005年から現在までウェブの企画・制作・マーケティングまで幅広く経験しています。これからも仕事の中心はウェブの仕事です。2021年から行政書士専用のウェブ制作を行っています。

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