実家の相続について、これからも住む場合・住まない(売却)場合の注意点

ライター依頼記事

親族が亡くなり、実家の土地や建物を相続することがあります。この場合にさまざまな手続きが必要となります。

しかし、初めての方はどのように手続きを進めていけばよいか、戸惑ってしまうのではないでしょうか?また、「実家を相続したが住まない場合」は、対策が必要です。

そこで今回は、実家を相続するときの流れや相続した実家に住む場合・住まない場合の注意点などを詳しく解説します。

実際の不動産相続で、実家を相続する可能性が高い方に役立つ記事となっていますので、ぜひ参考にしてみてください。

実家を相続する前に確認すべきこと

  • 遺言書の確認
  • 実家の登記名義人の確認

遺言書の確認

遺言書があった場合は、法定相続分より遺言書の内容が優先されますので、まずは「遺言書があるか」を確認しましょう。突然、親が亡くなり実家を相続することになれば、さまざまな手続きが必要となりますが、遺言書の有無で進め方が大きく変わってきます

また、遺言書による不動産相続の場合は、不動産登記の名義変更手続きの際、提出書類に検認済みの遺言書(公正証書遺言は検認不要)が必要になります。

相続人全員の同意があれば、遺言と異なる遺産分割協議で決めた割合で分割することもできますが、遺言で遺産分割が禁止されていないこと、遺言執行者がいる場合に同意が必要なこと、相続人以外の受遺者が同意しているなどの条件つきで可能とされている点に注意が必要です。

遺言書の有無を確認

遺言書には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言があります。遺言書の種類によって保管場所が異なり、法的に有効にするために家庭裁判所の検認が必要である場合とそうでない場合があります。

公証人役場に確認

「公正証書遺言」または「 秘密証書遺言」は、お近くの公証役場で遺言書の有無を検索できます。

遺言の種類保管場所家庭裁判所の検認
公正証書遺言公証役場不要
秘密証書遺言自由必要
開封せずに家庭裁判所へ
秘密証書遺言は、故人が保管場所を自由に決められます。秘密証書遺言があることがわかったら、故人が遺言書を保管していそうなところを探しましょう。

法務局に確認

「自筆証書遺言書保管制度」 を利用した自筆証書遺言書は、お近くの法務局で遺言書の有無を確認できます。

自筆証書遺言書制度の利用保管場所家庭裁判所の検認
あり法務局不要
なし自由必要
開封せずに家庭裁判所へ
自筆証書遺言書は、故人が保管場所を自由に決められます。故人が遺言書を保管していそうなところを探しましょう。
豆知識

自筆証書遺言書の作成方法
自筆で書いた遺言です。代筆したり、パソコンで打って印刷したものは、自筆証書遺言とはなりません。内容に誤りがあると無効になるケースもあります。

自筆証書遺言書保管制度について
2020年7月10日から法務局で保管できる「自筆証書遺言書保管制度」が開始されました。この制度により、他人に改ざんされたり、​​​​紛失・亡失などを防ぐことができます。法務局に遺言書の有無を確認することができます。また自筆証書遺言書保管制度を利用している場合は、家庭裁判所の検認も不要です。

公正証書遺言の作成方法
「公正証書遺言」は、遺言者が公証役場で口頭に方法で内容を伝え、公証人が遺言書を作成します

秘密証書遺言の作成方法
「秘密証書遺言」は、遺言の内容を誰にも知られることなく作成できる方法です。​​​​自筆証書遺言と異なり、パソコンや代筆してもらうことも可能です。公証役場で公証人と証人2人以上の前で遺言書が自身のものであることを証明します。

遺言は満15歳以上であれば書くことができます

実家の登記名義人の確認

登記名義人の確認方法

祖父母の代から名義変更されていない場合やそもそも未登記であるケースもあります。まずは、登記簿謄本(登記事項証明書)で登記名義人が誰になっているのか確認していきましょう。

​​登記簿謄本は、法務局またはインターネットの登記情報提供サービスなどで取得することができます

未登記の建物だった場合

未登記の建物を相続した場合、所有権の取得の日から1か月以内に表題登記を申請する必要があります。

物理的な状況を示す表題部登記は、固定資産税や都市計画税を徴収する際に必要となります。ところが、実際には放置されている未登記の建物が多数存在しているのが現状です。理由としては、費用がかかるので登記手続きが先延ばしにしている、未登記のまま所有者が亡くなった、住宅ローンを利用せず現金一括払いで家を建てたなどが挙げられます。

新築した建物は、所有権の取得の日から1か月以内に表題登記を申請しなければなりません。(不動産登記法47条1項)

未登記であれば、10万円以下の過料に処せられます。
(不動産登記法164条)

相続登記の義務化について

​​実家の家を相続する際は名義変更のため、相続登記を行いますが、2021年の時点では任意となっています。

しかし、相続登記の義務化に関する法案が可決・成立しているため、2024年を目途に施行予定されています。

実家を相続するときの流れ

  • 遺言書の確認
  • 相続税の納税義務がないか(遺産や債務の確認)
  • 相続放棄をするかどうか
  • 準確定申告
  • 準確定申告の期限について
  • 遺産分割協議書の作成
  • 相続税の申告と納付

遺言書の確認

前述の通り、法定相続分より優先されるため、遺言書の確認を行います。自筆証書遺言や秘密証書遺言の場合は、家庭裁判所へ検認を申し立てなければなりません。

相続税の納税義務がないか(遺産や債務の確認)

相続税の基礎控除額を超えなければ、相続税の納税義務はありません。
しかし、お金に換えられる財産であれば、すべて相続の対象となります

相続放棄をするかどうか

実家を相続するときに最初に期限が訪れるのは「相続放棄」です。相続放棄は、相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内にしなければなりません。

住宅ローンの残債も財産に含まれるため、不動産価格と残債を比較し、残債の方が多いのであれば相続放棄を検討することになります。

準確定申告

準確定申告とは、亡くなった人のかわりに行う確定申告のことです。準確定申告ができるのは、相続人と包括受遺者です。

  • 包括受遺者とは、遺言により財産のすべて又は一部の割合的に受けた者です。
  • 遺贈とは遺言による贈与で、遺贈を受けたものが受遺者です。

準確定申告の期限について

準確定申告の期間は、被相続人が死亡した年の1月1日から亡くなった日までの所得について確定申告を行います。提出する書類は、通常の確定申告と同様です。

相続人が相続の開始があったことを知った日の翌日から4カ月以内に準確定申告を行わなければなりません。

例えば、被相続人が8月15日に死亡して相続人が同じ日にそのことを知った場合は、12月15日が準確定申告の期限となります。

ただし、​​被相続人に申告する所得がなかった場合は、準確定申告をする必要はありません

準確定申告が必要なケース
  • 給与収入が2,000万円を超えた場合
  • 給与所得、退職所得以外の所得の合計額が20万円を超えた場合
  • 2ヵ所以上から給与をもらっていた場合
  • 公的年金等による収入が400万円を超えた場合
  • 公的年金等による雑所得以外の所得金額が20万円を超えた場合
  • 生命保険などの満期金や一時金を受け取っていた場合
  • 土地や建物などを売却した場合
  • 事業所得、不動産所得がある場合

遺産分割協議書の作成

遺産分割協議は、相続人全員が参加しなければなりません。一人でも参加していない場合は無効となります。

しかし、一同が集まる必要はありません。電話やメール、Zoom等でやり取りを行い、全員の合意があれば遺産分割協議が有効となります。

遺産分割協議がまとまれば、遺産分割協議書を1通作成します。このときに相続人全員の署名・捺印が必要です。印鑑は実印を使用します。

遺産分割協議書は、パソコンでも手書きでも可能です(作成期限はありません

相続税の申告と納付

被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に申告と​​納付をしなければなりません。

税務署に提出する書類は、国税庁のホームページ等に記載されています。
(参考サイト:国税庁「相続税の申告の際に提出していただく主な書類」)

相続税の申告のしかた(令和2年分用)|国税庁

法定相続分について

相続する際は、誰にどのくらい分けられるのかを決められています。以下のように順位が定められています。

配偶者がいる場合は、常に相続人となります。

順位親族
第1順位
第2順位直系尊属(父母)
第3順位兄弟姉妹

子がすでに亡くなっている場合は、子に変わって孫が相続人となります。孫もすでに亡くなっている場合は、ひ孫が相続人となります。

本来相続人となる子または兄弟姉妹がすでに亡くなっていた場合にその者の子が代わって相続することを「代襲相続」と言います。

一方、子は実子、養子でも相続分は同じになります。

順位親族
1.子供がいる法定相続人と法定相続分
2.子供がいない、父母がいる(直系尊属)配偶者2/3、直系尊属1/3
3.子供と父母がいない、兄弟姉妹がいる配偶者3/4、兄弟姉妹1/4

実家相続の相続税について

相続税の対象

相続税は、実家のような不動産以外にも預貯金、貸付金、有価証券、宝石、自動車、事業用財産などがあります。

その他、相続財産の中でも「みなし相続財産」があります

「みなし相続財産」とは、相続税法上で相続財産とみなす制度です。代表的なものとして、生命保険金、死亡退職金、債務免除、年金や保険金などを受け取る定期金の権利があります。

死亡退職金とは、亡くなった人が受け取る予定だった退職金を代わりに遺族へ支払われるお金のことです。一方、借金はマイナスの財産として、被相続人の財産から減額されます。

相続税の非課税について

相続財産の中には、非課税になるものがあります。墓地、墓石、仏壇、仏具、神棚、神体、神具などの「祭祀財産」です。しかし、趣味で購入した骨とう品などは課税対象となります。

また、相続人が国や地方公共団体等に寄付した相続財産も非課税となります。

生命保険金や死亡退職金は「みなし相続財産」ではありますが、「500万円×法定相続人の数」という非課税枠があります。

相続税の基礎控除

相続税は、一定の金額以下であれば非課税となる​​「基礎控除」があります。

相続税の基礎控除は、以下の計算式となります。

基礎控除=3,000万円+(法定相続人の数×600万円)

例えば、配偶者と子ども3人の場合は、

3,000万円 + 600万円 ×4人 =5,400万円となります。

法定相続人1人〜6人の基礎控除額は、以下の通りです。

法定相続人基礎控除額
1人3,600万円
2人4,200万円
3人4,800万円
4人5,400万円
5人6,000万円
6人6,600万円

実際に課税される遺産総額

続いて実際に課税される遺産総額ですが、計算式は以下の通りです。

課税対象の遺産総額 = 課税価格 - 基礎控除額

例えば、​​​​配偶者と子ども2人、課税価格4,000万円であった場合です。

課税価格4,000万円ー基礎控除額4,800万円=0円

課税対象の遺産総額は、ゼロとなるため相続税は発生しません。

実家の相続税評価額・計算方法について

実家の相続税評価額は、土地と建物でそれぞれ異なります。

  • 土地は、路線価方式または倍率方式で評価します。
  • 建物は、固定資産税評価額で評価します。

土地の相続税評価額

路線価図は、国税庁のホームページで確認できます。

相続税路線価図には、数字の末尾にアルファベットがつけられています。これは「土地の借地権割合」を示しています。

借地権割合の一覧は、以下の表になります。最低が30%となり、それ以下はありません。

記号借地権割合
A90%
B80%
C70%
D60%
E50%
F40%
G30%

土地の相続税評価額(路線価方式)の計算方法は以下の通りです。

土地の相続税評価額=補正後の路線価×面積(㎡)

例えば、路線価が「500D」で土地面積が​​100㎡であれば、

土地の相続税評価額=50万円×100㎡=5,000万円」と算出されます。

建物の相続税評価額

建物は、非常にシンプルで固定資産税納税通知書に記載されている「固定資産税評価額」が相続税評価額となります。

たとえば、建物の固定資産税評価額が2,000万円である場合は相続税評価額も2,000万円です

相続した実家に住む場合・住まない場合の注意点

相続した実家に住む場合

遺産分割の割合に注意する

相続人が複数いる場合に実家を引き継いでそのまま住む人と、住まない人の分割割合です。実家の資産価値が高く、他に相続財産が少ないケースでは不公平感が生じやすくなります。

例えば、相続財産の評価額が実家2,000万円、現金は500万円であるような場合です。

このようなときは、代償分割で不公平感を解消する方法があります。代償分割とは、1人の相続人が財産を取得し、残りの相続人に代償金を支払う分割方法です。

リフォームや修繕費用がかかる

相続した実家が築年数が古い物件の場合、リフォームや修繕費用がかかることを想定しておきましょう。一般的には、12〜15年に一度に大規模修繕が実施されます。

相続した実家に住まない場合

実家の売却を検討する

売却する際は、以下の特例を利用することで節税の効果が期待できます。

取得費加算の特例

取得費に相続税の一部を計上できる制度です。不動産を売却して利益が出ると、所得税を軽減できます。相続や遺贈により財産を取得した人、その財産を取得した人に相続税が課されているなどの要件があります。

相続した空き家を譲渡した場合の3000万円特別控除

相続後に空き家を売却した場合、一定の要件で譲渡所得の金額から最高3,000万円まで控除できる制度です。詳しくは、国税庁のホームページで確認することができます。

No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例|国税庁

どちらも売却期限が設定されている

取得費加算の特例は、​​相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売却しなければなりません。

相続した空き家を譲渡した場合の3000万円特別控除は、相続の開始があった日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却しなければなりません。

実家の賃貸を検討する

賃貸に出す場合は、築年数やリフォームの必要性、周辺の需要など、さまざまな計画が必要となります。

家賃収入は、不動産の所有権を取得した相続人のものとなります。ただし、所有権移転登記を済ませておく必要があります

実家が空き家になっている場合の注意点

建物の倒壊、犯罪リスクが高くなる

実家を空き家のままになっていると、建物の倒壊や不法投棄、不法侵入、放火などのリスクがあります。これらのリスクを軽減するには、建物の維持・管理のコストもかかります。

固定資産税等が上がる可能性がある

危険な建物は、自治体により「特定空き家」に指定されます。この場合「住宅用地の特例」は、​​適用対象から除外され、​課税額が上がることになります。

また、空き家でも毎年のように固定資産税と都市計画税が課税されます。

まとめ

今回は、実家を相続するときの流れや実家に住む場合・住まない場合の注意点などを詳しく解説しました。

まずは、遺言書の有無を確認、なければ遺産分割協議を行います。必要に応じて、死亡から4カ月以内に故人の準確定申告を行うことを忘れないようにしましょう。

また、不動産にかかる相続税には、土地・建物の相続税評価額や課税対象の遺産総額、相続税の基礎控除額などの算定がポイントです。

一方、実家に住む場合の注意点として、遺産分割の割合をしっかり話し合う、修繕やリフォームなどの費用を想定しましょう。

実家に住まない場合は、売却や賃貸を検討することになります。ただし、空き家のまま放置すると、場合によっては、住宅用地の特例が適用対象外となるので注意しましょう。

この記事のディレクター
行政書士 保田 多佳之

このサイトの管理者。2005年から現在までウェブの企画・制作・マーケティングまで幅広く経験しています。これからも仕事の中心はウェブの仕事です。2021年から行政書士専用のウェブ制作を行っています。

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