「サブリース」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。賃貸住宅を建設して業者に丸ごと貸し出し、業者のブランド力で集客した賃料収入が見込めるとして、不動産投資の選択肢として注目を集めました。また、「サブリースは相続税対策になる」と言われることがあります。
そこで、今回は、相続との関係を中心にサブリースについて解説します。
サブリースとは
サブリースとは、所有者が地上に建物を建て、これを不動産会社等が一括借り上げして、オフィス等として転貸するという契約形態のことです。
つまり、「転貸」を予定した賃貸借契約のことです。このときの、所有者と不動産会社との間の賃貸借契約のことを「マスターリース契約」といい、賃貸事業を行う不動産会社等のことを「サブリース会社」といい、リース会社により行われる賃貸事業のことを「リース事業」といいます。
所有者は銀行等から融資を受けることが通常
サブリースの際、所有者は銀行等から融資を受けることが通常です。また、所有者から建物の建築を請け負うのは、通常、デベロッパーやハウスメーカーであり、サブリース会社はその関連業者や賃貸管理会社ですから、サブリース会社は、建物の建設や資金の借入れの段階から所有者に助言等を行うことも多くあります。
サブリース会社の助言等を受けて、建物建設する
すなわち、サブリースでは、所有者はサブリース会社の助言等を受けて、建物をデベロッパー等に建設してもらい、これをサブリース会社に貸します。サブリース会社は、これをオフィス等として貸し出し、そこから転貸賃料を得ます。この転貸賃料の一部がサブリース会社の収益となります。そして、所有者はマスターリース契約の貸主ですから、サブリース会社から賃料を得ることになります。
サブリースのメリット
実物不動産投資とは
サブリースは、土地上の建物を対象とするものですから、不動産投資のひとつです。
不動産投資は「実物」「小口化」「証券化」の3つに分類することができます。
「実物」 不動産投資とは 、金融機関等から融資を受けて自身でマンションやアパート等を所有し賃貸経営を行う方法です。
「小口化」不動産投資とは、不動産ファンドが特定の不動産を口単位に小口化して販売し、投資家がこれを購入するものです。
「証券化」不動産投資とは、不動産から生じる賃料等の収益と証券を結びつけこれを販売・購入するものを言います。
このうち、サブリースは、所有者がサブリース業者に賃貸する不動産という実物を扱っているのですから、「実物」不動産投資にあたります。
実物不動産投資は、一般的に、不動産実物を保有するため、保有資産を増やすことができる上に、実物から生じる収益(サブリースであれば賃料)を得ることができるという利点があります。また、後で詳しく解説する節税となるという利点もあります。
他方で、不動産実物が潜在的に持っているリスクを全面的に負担しなければならず、想定した通りの実物から生じる収益を得られるとは限らないという欠点もあります。
管理業務の煩雑さの軽減
このような特徴のある「実物」不動産投資ですが、その中でもサブリースが注目されるのは、節税となるというメリットのほかに、管理業務をサブリース業者に委任できるため、管理の負担を大幅に軽減できるからです。
サブリース業者の多くは、不動産会社であり、不動産管理の知識・ノウハウを多く持っており、個人で不動産の賃貸・管理を全て行うよりも負担を大幅に減らすことができます。
また、不動産会社であるというのは、所有者にとって安心感を与えるものです。知識・ノウハウのあるものに管理を完全に任せることにより、安定的な収入を得ることができ、安心感もあるというので、サブリースは注目されるようになりました。
相続税対策
節税というメリットについては、2015年に相続税の基礎控除額が引き下げられ、相続税の課税対象範囲が広がったため、それまで相続税対策について考えていなかった人も相続税対策を考えるようになりました。
その相続税対策の1つとしてサブリースが利用されるようになっていきました。具体的には、次のような点でメリットがあります。
不動産評価額
土地を賃貸し、その上に賃貸する建物が存在する場合
賃貸建物
貸付事業用宅地等に該当する不動産をサブリースの目的不動産としていれば
不動産にかかる固定資産税は、不動産評価額を基礎として課税金額が決められるため、このように不動産評価額が安くなることは節税の方法となります。
また、相続税についても、死亡した者の親族等、相続人の課税価格は財産の額を計算した上、そこから費用や控除額を差し引いて計算されるため、不動産評価額が安いというのは節税のために有効です。
債務控除
賃貸アパートを建設する場合、必要資金については一部融資を受けるのが一般的です。
この融資を受けた借入金は、相続税法では「債務控除」の対象となるため、この点でもサブリースは節税になり得ます。
サブリースのデメリット
しかし、サブリースにはデメリットもあります。
近年では、サブリース業者による強引な営業や不正融資のトラブルが多く報告されており、消費者庁、金融庁、国土交通省による注意喚起もされています。
具体的なサブリースのデメリットとしては以下のようなものが考えられます。
期待した賃料収入を得られない場合
サブリースが利用される際、所有者はサブリース業者から賃料収入を受け取ることになります。しかし、賃料収入が周辺不動産の家賃相場からかけ離れていれば、そもそも十分な数の入居者がおらず、期待した賃料収入を得られない場合があります。サブリースでは、契約で最低賃料保証をうたっている場合もありますが、多くのサブリース契約では、2年ごとに賃料を見直すという契約内容となっており、契約から時差がある段階で、賃料が減額され、問題が顕在化する可能性があります。長期的な視点で賃料(収益)の価額が適切に設定されているのかを判断するのは難しく、期待した収益を得られない場合があるというデメリットがあります。
物件の保守管理費用は所有者が負担する
また、多くのサブリースでは、物件の保守管理費用は所有者が負担するという契約内容となっています。これまで、サブリース業者は、所有者に保守管理費用を負担してもらい管理を行い、古くなれば壊して建て替えるというような賃貸経営を行ってきました。費用を負担し管理をサブリース業者に任せることができたとしても、手元の建物を持ち続けることができるとは限らないというのもデメリットとして考えられます。
サブリース利用の注意点
このようなメリット・デメリットのあるサブリースですが、これを利用するかどうか考える際には、以下のようなことに注意する必要があります。
税法改正の多さ
不動産投資としてのサブリースは、長期投資を前提としています。しかし、サブリースの主な利用目的である相続税対策との関係では、税法は毎年改正がされる非常に改正の多い法律です。
サブリースとして想定していた契約期間の途中で税法が改正され、期待したほどの節税効果が得られない場合もあります。この点を念頭に置いた上でサブリースを利用するかどうかを判断することが必要になってきます。
賃料減額請求や解約のリスク管理
サブリース契約は、所有者(賃貸人・貸主)が、サブリース業者(賃借人・借主)に不動産を賃貸し、サブリース業者がさらにこれを第三者に賃貸(転貸)するという転貸を予定した賃貸借契約です。
民法や借地借家法では、賃借人を重点的に保護する規律となっています。サブリース業者が不動産業者のような所有者よりも多くの知識を持っている場合であっても、サービス業者は賃借人として扱われ、厚い保護を受けます。
したがって、サブリース業者は、土地建物の価格の増加・減少といった経済事情の変動等により賃料減額請求(借地借家法32条1項)をすることができます。また、契約内容によっては契約の一方的な解約(民法617条1項、618条)の可能性もあります。
このようなリスクに備えて、契約条件をきちんと確認した上で、必要であれば契約内容の変更を求め、納得できる場合にだけサブリース契約を締結することが大切です。
不正融資の可能性
サブリースは不動産投資のために用いられることが多く、サブリース業者や融資を行う金融機関が、投資用物件を購入してもらうために不正融資を行うという事件があり、大変問題になりました。
このような不正融資の被害に遭うことを避けるためには、契約内容を理解し、慎重に業者を選ぶことが重要です。
相続人との情報共有の必要性
サブリース契約を締結していた人が死亡した場合、賃貸物件に関する権利義務は、そのまま配偶者や子といった相続人に引き継がれることになります。
しかし、相続人が物件の状況について知らなかった場合には、契約関係や収支状況について一から確認していくという負担が生じ、相続人間の争いの原因となり得ます。
そこで、相続人との間で日頃から情報共有をしておくことも必要です。
サブリースに関する法律
サブリースに関する法律としては、賃貸借契約に関する民法の規定や借地借家法の規定、税法上の規定があります。
管理適正化法
「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」(以下「管理適正化法」といいます。)が令和3年6月15日に施行されました。これは、サブリース業者と所有者との間でのトラブルを防止するために作られた法律です。
不当な勧誘の禁止、誇大広告等の禁止、特定賃貸借契約(マスターリース契約)前の重要事項説明について定め、違反者に対しては、業務停止命令や罰金等の罰則を定めています。
賃貸住宅管理業について登録制度が創設
また、管理業務適正化法の制定により、賃貸住宅管理業について登録制度が創設されました。これは、賃貸住宅管理業務を営む者について、国土交通大臣の登録を義務付け、登録された管理業者に対して、以下を義務付けたものです。
- 業務管理者の配置
- 管理受託契約締結前の重要事項の説明と書面交付
- 財産の分別管理
- 定期報告
まとめ
今回解説したように、サブリースは適切に利用すれば、相続対策に有用な場合もあります。
しかし、サブリースというのは、何を主な目的として利用を考えているかによって、その良し悪しは変わるものです。
解説した注意点も踏まえて、必要に応じて専門家に相談しつつ、サブリースを利用するかどうかを判断することをお勧めします。