相続時の分割方法(換価分割と代償分割)の基本と応用

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不動産を相続した場合、相続人はその財産をどのようにして分けることになるのでしょうか。今回は、不動産を相続したときの分割方法について解説します。

相続が起きた場合の権利関係

親族等の死亡によって、相続が開始した場合(民法882条)、相続人は、死亡した者(被相続人)の権利義務を引き継ぐことになります(民法896条)。この場合に、相続人が複数いれば、相続の対象となる財産は「共有」という状態になります(民法898条)。

共有とは

共有とは、1個の所有権を2人以上の者が量的に分有する所有形態をいいます。つまり、1個の不動産の所有権を複数人で「持分」という割合的単位に応じて分け合っている状態です。

では、共有持分を持っている人はどのようなことができるのでしょうか。共有持分権者は、共有物について持分に応じた使用ができます(民法249条)。また、単独で「保存行為」ができるほか(民法252条但書)、過半数の同意により「管理行為」ができます(同条本文)。「処分行為」には、共有持分権者全員の同意が必要です(民法251条)。

トラブルの原因にも

財産を共有状態のままにしておくとトラブルの原因にもなります。共有関係では、1個の不動産に対して権利を持つ人が複数存在するため、権利関係が複雑になりやすいからです。

例えば、持分権者同士での意見が合わず、ある人は不動産全ての売却を望んでいるのに、ほかの人が反対してこれを実現できないということがあります。

また、不動産を所有していると、共有持分に応じて固定資産税を負担する必要がありますが、ほかの持分権者の分を立替払いしたものの、立て替え分の支払いに応じてくれないこともあります。

さらに、共有となっているまま、さらに相続が発生した場合、その相続で死亡した者の共有持分を、相続人がさらに相続分に応じて共有することとなるため、権利関係はさらに複雑になります。

このように、共有状態には、トラブルはつきものです。

そこで、この共有状態を解消するために、「遺産分割」(民法907条)または「共有物分割」(民法258条)の手続をとる必要があります。「遺産分割」となるか、「共有物分割」となるかは、その財産が分割時点で「遺産」に属しているかどうかによって決まります。

4つの分割方法

遺産分割、共有物分割の方法には、4つの方法があります。

  • 現物分割
  • 換価分割(価額分割)
  • 代償分割
  • 共有分割

以下では、それぞれの方法がどのようなもので、どのようなメリット・デメリットがあるのかについて解説します。

現物分割

定義

現物分割とは、共有者間において、共有物そのものを分割する方法です。遺産を現物分割する場合、共有となっている遺産全体のうち、ある相続人は預貯金を、ほかのある相続人は不動産を相続するという現物分割の方法をとることも可能です。

メリット

簡潔さ・明確さ

現物分割は、相続の対象物をそのまま分割する方法ですから、細かな不動産評価は不要です。また、不動産をそのまま取得するという簡潔な方法であり、相続に詳しくない人でも分かりやすいというメリットがあります。

不動産の継続保有

現物分割では、相続人の誰かが不動産をそのまま取得することになるため、代々保有していた不動産を手放す必要がありません。

デメリット

不公平感

現物分割では、土地や建物を取得する相続人もいれば、預貯金等を取得する相続人もいます。このように、取得する対象物が異なると取得分の価値の評価が難しく、不公平感を抱く相続人がいることも少なくありません。

不動産価値低下の可能性

現物分割で1つの不動産を複数人で分割することになった場合、「分筆」の手続をとる必要があります。このように土地を細分化すれば、土地の価格は低下する可能性が大きいです。

不動産を継続保有したいと思う相続人がいる場合、不動産以外の遺産もあり不公平感が大きくならない場合が現物分割に適した場合でしょう。

換価分割(価額分割)

定義

換価分割(価額分割)とは、共有物を売却し、その代金を共有者間で分割する方法です。この方法は、現物分割が不可能な場合や現物分割によって著しく価値を損ずるおそれがある場合にとられます。

メリット

公平感の確保

換価分割をした場合、不動産という分けにくい形が解消され、金銭という数量的に分割が可能な物が手に入ります。分け合う時点での価値が一定かつ明確で、1円単位で分けることができる金銭を分割の対象とすることは、公平感の確保につながります。

代償分割のデメリットを換価分割で回避

後述するように、代償分割には、償金確保の必要性や償金額をめぐる紛争といったデメリットがあります。換価分割は、売却で得た金銭を分割するものですから、償金に関する問題は生じません。

デメリット

廉価売却の可能性

不動産の売却価格は、諸条件により変動するものです。しかし、相続した土地をできるだけ早く手放したいと考えている場合、その不動産の評価額が安い時点で売却してしまい、相続人全員が損をしてしまうこともあります。

諸コストの発生

換価分割の方法をとった場合、売却代金から不動産仲介手数料等の諸経費を差し引いた上で、分割をすることになります。また、相続税のほかに、場合に応じて「譲渡所得税」を負担しなければならないこともあります。このように、換価分割の方法をとるため発生してしまうコストがあります。

不動産の喪失

当然のことですが、換価分割の方法をとれば、相続の対象となる不動産を売却するわけですから、売却によってその不動産の所有権を失います。不動産という資産価値のある物を失ってしまうことは、換価分割のデメリットといえるでしょう。

これらのことから、相続人全員が不動産の権利を引き継ぎたいとは考えていない場合、公平感のある遺産分割をしたいと考えている場合、償金を用意できる相続人がいない場合には換価分割の方法が適しているといえます。また、売却代金を得ることにより、そこから相続税を支払いたいと考えている場合にも、換価分割は適しているといえるでしょう。

代償分割

定義

代償分割とは、特定の相続人に共有物を単独で取得させ、その相続人は、他の共有持分の代償として物を取得しない相続人に対し金銭(償金)を支払う方法です。

メリット

共有状態の回避

不動産を共有状態にしておくことは、先に説明したようなトラブルの原因になります。代償分割の方法をとれば、不動産を取得するのは、特定の相続人のみですから、この共有状態を避けることができ、共有関係による紛争予防になります。

不動産の継続保有

代償分割の方法をとれば、不動産の所有権を取得する者が存在するため、不動産を手放す必要はありません。法律関係とは別に、代々所有する土地を手放すことに抵抗があるという感情を持つ人は少なくありません。代償分割では、このような不動産の継続保有の希望を叶えることができます。

相続人それぞれの利益の実現

他方で、複数の相続人の中には、不動産の所有に伴う管理費用の負担を避けたい等の理由から、不動産の継続保有を望まない者もいます。このような者の希望と、不動産の継続保有をしたい者の希望を、同時に実現し得るのが、代償分割のメリットといえます。

デメリット

償金確保の必要性

不動産は一般的に資産価値が高い物であるため、代償分割の際に支払う償金も高額になりやすい傾向にあります。したがって、償金を支払うべき者に十分な資力がない場合には、事実上、代償分割の方法をとることはできません。

償金の額をめぐる紛争

償金を支払う資力がある者がいたとしても、償金の額をできるだけ小さくしたい償金を支払うべき者と、できるだけ大きくしたい不動産の所有権を取得する者との間で償金の額をめぐって揉める可能性はあります。不動産の評価手法には、時価評価額、固定資産税評価額、路線価額など様々なものがあり、不動産鑑定を行ったとしても、一義的に「この土地はいくら」と決めることができないからです。このような償金額をめぐる紛争の可能性は代償分割のデメリットといえます。

これらのことから、単独で不動産を取得したいと考えている相続人が1人だけいる場合、不動産を継続保有したい場合には、代償分割が適しているといえるでしょう。

共有分割

定義

共有分割とは、遺産の一部または全部を複数人の相続人の間で法定相続分に従い、共有持分の形で取得する方法です。例えば、相続の対象となる土地をAとBとで共有持分2分の1ずつで取得するような場合です。

メリット

共有分割は、法定相続分にしたがって分割するものですので、遺産分割協議を早期に終了させることができるということがメリットとなります。

デメリット

他方、共有分割によると、遺産の共有状態は解消されないため、共有状態によって権利関係が複雑となることに伴うトラブルは解消されないということがデメリットです。

これらのことから、不動産を共有する関係を維持して当面の間、権利関係が複雑となるとしても、遺産分割協議を早く終了させ、遺産に関する権利関係の清算をしたい場合には、共有分割の方法が適しているといえます。

まとめ

このように、相続する不動産の分割方法には4つの方法があり、相続人の意向や権利関係により、いずれの方法が適しているかは異なります。

それぞれのケースに応じて、最適な方法を選択することが必要です。しかし、事案によっては、どの方法が適しているのかの判断が難しい場合もあります。

そのような場合には、専門家に相談の上、相続人で話し合いをすすめていくことをオススメします。

この記事のディレクター
行政書士 保田 多佳之

このサイトの管理者。2005年から現在までウェブの企画・制作・マーケティングまで幅広く経験しています。これからも仕事の中心はウェブの仕事です。2021年から行政書士専用のウェブ制作を行っています。

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